公益社団法人 東京都教職員互助会

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トップページ > 教育振興事業 > 平成22年度 助成グループ 研究テーマ > 学校のOJTを考える会 > 学校のOJTを考える会(研究報告)

教育研究グループ支援(研究成果報告)

研究の概要

学校のOJTを考える会

本研究会は、東京都教育委員会が発行したOJTガイドラインを基にして、
実践的見地から学校におけるOJTの在り方を考え、
OJTの一層の推進を図るための調査及び研究を行った。
以下、研究の報告を行う。

1.OJTの実態

(1)OJTの方法

研究グループ所属の各学校で実施しているOJT及び都内3地区で実施されている
OJT(研修会における聞き取り)について、教員に身に付けさせたい4つの力に関連付けて
分類すると以下のようになる。

身に付けさせたい力 具体的場面 具体的方法
学習指導力

①授業観察

②ショート研修会

③グループ研修

④合同授業

⑤校内研究

①指導案の作成過程や授業観察後に、意見交換しながら
助言する。OJT担当者がねらいをもって自分の授業を
見せ、気付きや学びについて述べ合う。

②テーマと回数を決め全体で実施する。
(例)板書の方法、発問・指示・説明、授業規律確立の
ポイント、水泳指導の基本・・・

③グループごとに研修テーマを設定し、
実践について意見交換したり、 授業を見て助言し合ったりする。
(例)グループの分け方:学年、経験年数、テーマ別

④学年合同授業でT1とT2を交替で行い、
授業前の打合せや授業後の振り返りを一緒に行う。

⑤研究の視点を指導方法や指導技術を学べるものにする。
協議会でグループやペア協議を入れ
意見交換が活発になるようにする。

生活指導力・
進路指導力

①学年会

②生徒指導場面

③給食、清掃等

④ショート研修会

①学年会の中で児童の実態について情報共有し、
実態把握の仕方や指導方法について助言する。

②児童の掌握の仕方、集団の動かし方をやって見せ、
指導のポイントについて気付かせる。
問題行動があった際、指導場面に立ち会わせたり、
指導させたりし、その後意見交換する中でポイントを整理する。

③給食や清掃指導のやり方を見せた後に、指導方法について助言する。
また、指導させてみて助言する。

④テーマと回数を決め全体で実施する。
(例)生活指導の基礎・基本、児童理解の方法

外部との連携・
折衝力

①連絡帳記入、電話対応

②保護者会、個人面談

③通知表

④関係機関との連携

①OJT担当者が育成対象者の学級の連絡帳を確認し、
連絡帳に記載されたことの受け止めや
書き方について指導・助言する。

②保護者会の進め方について打ち合わせる中で指導する。
個人面談について事前にポイントを助言する。
また保護者の了解を得て同席させる。

③通知表所見の下書きをチェックし、指導する。

④各関係機関の役割と連携の方法について、
事例をもとに考えさせるとともに、折衝させながら助言する。

学校運営力・
組織貢献力

①文書作成

②分掌の遂行

③学年会

①起案文書のチェックをする。
担当⇒学年・分掌主任⇒主幹教諭⇒副校長⇒校長

②分掌主任には、部会の年間計画を作成させる。
部内の各担当に提案の機会を与え検討させる。

③学年会の時間を確保し、内容や役割を明確にした
学年会を実施させる。

 

(2)OJT実施体制

若手研修会、教職員全員参加のショート研修会など、一堂に会して行うOJTが積極的に
実施されている。
一方、一人一人の教員に対してOJT責任者を決め、学校で組織的にOJTを実施している実態はまだ少ない。
本研究会所属の2校において、職層、学年構成を中心とした実施体制図を教員に示し、
助言・支援できる関係を明らかにした。

2.OJTの成果

(1)一人一人の教員に変容があった

一人一人の教員が4つの力における自己の課題を以前より明確にとらえるようになった。
また、OJT担当者が人材育成を職務としてとらえ、それぞれの場面で自分の経験や実践的知識を伝えようとするようになった。
右のグラフは、研究会に所属の小学校で23年度初めに教員に調査したものである。
OJTに取り組む1年前はその言葉さえ知らない教員が4割程度いたり、日常の自分の職務をこなすのに精一杯で育成という視点をもたずにいたりという教員が多かった。
しかし、組織的にOJTに取り組んだ結果として、「OJTの必要性を感じている」「教員間に互いに資質・能力を高め合う雰囲気がある」という設問に対して、9割以上の教員が肯定的にとらえている。 同調査の自由記述欄に、OJTをしたことで、「学ぶ機会が増える」「何を学ぶのか考えることができる」「向上心をもてるようになった」と書かれているもの、少数であるが「授業力が向上した」というものもあった。


(2)学校の組織化が進んだ 

学校全体でOJTに取り組んだことで、学年主任や分掌主任が配下の教員に確認・助言したりする機会が増えるとともに当該主任から管理職への報告・連絡・相談も増え、結果として学校組織がより機能するようになった。
教員は、学年主任や分掌主任、主幹教諭から助言をもらう機会が増え、組織の一員としての意識が高まったと言える。  (1)でふれた調査でも、「組織として動きやすくなった」「一貫した指導ができた」「共通実践に効果があった」「個人の成長が組織の成長につながることが分かった」という声が半数近くあった。また、「聞きにくいこと、あいまいな事柄をきちんと知ったり、確認したりできる」という意見も少数ではあるが見られた。OJTを通じたコミュニケーションが増えることで職務を進めやすくなったことが分かる。
 OJTは人材育成の一つの手段であるが、これを推進することにより、学校の組織力が高まるきっかけになると言える。

3.OJTを推進する上での課題

<育成対象者について>

一人一人の改善への意識は高まったが、指導力が向上したとは言い難い。教員の課題に合ったOJTの方法を開発する必要がある。 やらされ感をもっている教員もいて本人に主体性をもたせながら進めることが課題である。

<OJT担当者について>

一人一人の改善への意識は高まったが、指導力が向上したとは言い難い。教員の課題に合ったOJTの方法を開発する必要がある。 やらされ感をもっている教員もいて本人に主体性をもたせながら進めることが課題である。

<実施体制について>

学校として、実施体制まで決めて取り組んでいる所は少ない。 また、2ページ上段のようにOJTの実施体制を定めた学校があったが、①学校の職層別人数比のアンバランスから、そもそも職層に応じた育成体制を作ることが困難であった、②育成する側とされる側に分けられることに教員が抵抗感をもった、③育成する側とされる側といったペアの閉ざされた関係になってしまい、それ以上の広がりを作り出せなかった、④OJT責任者になった者が、育成対象者に身に付けるべき4つの力のすべての手だての設定や進行管理を担わせることには無理があったという問題が現出した。   OJT責任者に育成対象者の年間育成計画を考えさせることは実際には負担が大きい。   (課題の把握、課題を解決する方策立案、権限の限界など)

<OJTの方法>

全教員参加によるショートやロングの研修会、若手研修会などは多くの学校で取り組み始めている。しかし、この方法だけでは、教員一人一人の課題にどこまで対応できているか、研修を受けた教員が何を学んだかについて把握することが困難である。 また、学習指導力を高めるために、育成対象者の授業観察をしたり、OJT担当者の授業を見せたりする方法は思い付きやすいが、先の調査によると、実際に「授業研究以外に教員同士で授業参観し合っている」と答えた教員は40%に満たない。これは、同時に授業を行っていることがほとんどという小学校の実情からすれば理解できる数値であり、何らかの工夫をしない限りこの方法に頼るだけでは学習指導力の向上は期待できないと言える。 また、時間の確保が課題であると挙げている教員が半数に及ぶ。地区が開催するOJTの研修会でも多くの教員から出る声である。そもそもOJTというのは、新たに時間の確保をしなくてもよいことを良さの一つとして挙げている。しかし、その良さが前面に出ず、むしろ反対の方向へと作用している。 時間は学校においてどのように時間を生み出すかと合わせてOJTの方法を考えていくことが課題となる。

4.OJT推進の方向性

(1) 教員に身に付けさせたい4つの力に応じたOJTの方法を開発すること

経験や能力により一人一人の課題が違う学習指導力、学年や学校で共通理解、共通実践を行っていく中で身に付いていく生活指導力・進路指導力、ポイントを押さえながら経験を積むことで高めていく外部との連携・折衝力、校務分掌の仕事を進めていく中で身に付けていく学校運営力・組織貢献力とでは、それぞれの力を身に付けさせるためにOJTを行う際の方法は一律ではない。
 3で述べた課題を踏まえ、それぞれの力を付けるのに最も有効なOJTの方法を開発していく必要がある。

(2) 計画的、継続的なOJTの実施体制を確立すること

実際にOJTの実施体制図を作成しOJTを進めてみると、様々な課題が浮き彫りになった。学年構成や校務分掌などの組織と、OJTの実施体制をどのようにつなげるのか、また、 教員にとって動きやすい実施体制とは何かを改めて探る必要がある。
 OJTの方法も含め、学校に継続的に残っていくような体制を確立するためのポイントも整理したい。

(3) 各教員が主体性をもって進めていくことができるようなOJTの工夫をすること

時間の確保を教員が課題として挙げる理由として、実際に指導・助言には時間がかかること、研修を組織的にやっていくほど自分の学級事務や教材研究の時間が削られると思っていることなどがある。しかし、現状として、教員の育成は大きな課題である。
 OJTへの理解をさらに促すこと、必要感や効力感をもたせながらOJTを行っていくための方法を研究していくことが求められる。

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