公益社団法人 東京都教職員互助会

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教育研究グループ支援(研究成果報告) 詳細

AT AAC(支援機器)研究会

平成24年度は「(1)AT・AACの活用から、キャリア教育を考える。(2)AT・AACの活用を通して、肢体不自由特別支援教育のセンター的機能を考える。」というテーマで支援機器を使った AT や AAC の研究を行なった。
平成23年度に引き続き教材の製作や活用方法の勉強会を中心にAT・AACを使ったコミュニケーション支援の方法を多くの教員に広め、深めていくこととともに、キャリア教育や特別支援教育のセンター的機能とも関連させて研究を進めることにした。(講座はすべて東京都立江戸川特別支援学校で開催した。)

1.AT・AAC(支援機器)製作講座(第1回) 平成24年6月1日(金)実施

江戸川特別支援学校教員19名、小岩特別支援学校7名、計26名の参加者。

研究成果報告作製したものは(1)フレキシブルアーム付き棒スイッチ(2)改造マウス(3)おむすびケースVOCA(4)BDアダプタ(5)どうぶつケーススイッチ(6)ゲーム用プッシュスイッチを利用したミニタッパーのスイッチの六種類を製作した。この回から製作したVOCAとはVoice Output Communication Aidの略で、音声表出がほとんど見られない子どもが授業や生活場面で使う会話補助装置である。音声での会話が難しい子どもが、この装置を使うことによってコミュニケーションの拡大や表出言語の増加が期待できる。VOCAの市販品は数万円するが、今回製作したVOCAは100円ショップのおにぎりケースを使い、数百円の10秒伝言メモ回路を組み合わせたもので1000円未満の材料費で製作することができ、故障を気にせず気軽に使えることが魅力である。肢体不自由児にも使いやすいように、ミニジャックで様々な種類の外部スイッチに接続して使えるようにした。またこの回では平成24年度から本校に導入された視線入力装置my tobiiP10のデモを行った。

my tobiiP10は手を使うことなく、視線だけでPC入力ができる装置である。モニターの下部に目の動きを捉えるセンサーが埋め込まれているので頭や身体に機器をつけなくても、モニターの場所を一定時間、注視すれば入力できる。My tobiiの中には文字を入力したり、eメールを送ったりできる機能やシンボルを使ったVOCA機能も内蔵され、手の操作に困難がある肢体不自由者のみならず、パソコン操作の理解や文字の理解が難しい知的障害のある人にも有効な機器である。

研究成果報告

AT・AAC(支援機器)製作講座(2回目) 平成24年8月8日(水)実施

参加者は午前午後合わせて25名。

研究成果報告この回は夏期休業期間ということもあり、遠くは埼玉県の特別支援学校から教員の方がはるばる参加してくださった。午前はiPad活用講座、視線入力装置「my tobii P10」の活用講座を行った。参加者にiPadを直に触ってもらい、特別支援教育に使えるいろいろなアプリを試してもらった。午後のスイッチ制作講座では特別支援学校の教員以外にも重度心身障害児施設や生活介護事業所の指導員の方、就労移行支援事業所の職員の方、区教委の臨床心理担当の方等が参加した。

研究成果報告

AT・AAC(支援機器)製作講座(3回目) 平成24年10月12日(金)実施

この回は小岩特別支援学校の先生方に加え、墨東特別支援学校、車椅子の業者の方、就労移行支援事業所の方、IT企業2社の方々と多彩な顔ぶれが参加した。参加者は25名。

研究成果報告この回ではiPadを肢体不自由の生徒が使うことのできるスイッチ接続機器の改造を取り入れてみた。iPadのようなタブレット型携帯端末は特別支援教育において、とても有効な支援機器であるが、手の操作性に困難のある肢体不自由児にとっては使いにくいという難点がある。iPadには工夫すれば、手で触れなくても、スイッチ手元のスイッチで操作できる方法がいくつかある。ひとつはiPad用のリモコンシャッターに外部スイッチ接続用のジャックを付ける改造である。

研究成果報告

元々一般用に販売されているものであるが、外部スイッチを接続することによって、指先しか動かせない人でもiPadを固定して対象物に向ければ、カメラのシャッターを押すことができる。この回の製作講座ではこういったものも取り入れてみた。参加された就労移行支援事業所の方やIT企業の方からはiPadを使った環境制御装置や開発したばかりのiPadアプリのゲームをデモしていただくことができた。

AT・AAC(支援機器)製作講座(4回目) 平成24年12月7日(金)実施

参加者 本校教員 12名

研究成果報告

VOCAの製作、各種スイッチの製作、動物のオモチャの改造等を行った。

AT・AACの活用と特別支援教育のセンター的機能について

研究成果報告今年度も、AT・AACの活用講座や教材製作講座に本校だけでなく、他の肢体不自由校、や知的特別支援学校、また地域の福祉施設から、参加してもらうことができた。支援機器によって障害を持つ人のコミュニケーションが広がったり、社会参加につながったりする場面を見るにつけ、そのノウハウを他校や地域に広めていくことは大事なことである。昨今は特別支援学校だけでなく、普通小中学校、都立高校においても肢体不自由児が少なからずいる現状があり、本校へ支援の相談が増えてきている。こうした要請に応えるため今後さらに情報発信の工夫を重ねていく必要がある。

支援機器とキャリア教育

重度・重複障害といわれる子どもとキャリア教育

研究成果報告重度・重複障害といわれる子どもにとっては、おむつ替えのときも、教員との大事なコミュニケーションの場面に成り得る。 キャリア教育ケースブックで菊池(2012)は寝たきりの重度重複障害の子がおむつ交換場面で(1)教員がその子の肩に触れ呼びかけたときに、その子が肩に触れられたこと、呼ばれたことを認知したなら、その子にとっての「情報活用能力」(2)その子が先生の存在を認識したならば、その子にとっての「人間関係形成能力」(3)その子がおむつ交換をすると見通したらその子にとっての「将来設計能力」そのために少しでも腰を浮かせたり、腰の筋肉に力が入ったり緩めたりしたら、その子にとっての「意思決定能力」であるとキャリア教育四領域のフィルタで日々の関わりを見ていくと、キャリア発達の場面があると論じている。このように重度重複の障害を持つ子どもにとって周りの環境や人に気づくこと、次の場面を見通し、次の行動を起こそうとすることを補助し、促進するものとして、AACやATはとても有効であるといえる。

視線入力装置My tobiiの可能性

研究成果報告

ある学習グループでtobiiの体験を行った。

動物を見続けると、その動物の鳴き声が出るソフトを使っている様子である。選ぶ、見るなどの活動を通して、「自分でできた」「ほめてもらった」という経験を積むこともキャリア発達にとって大事な要素である。

my tobii P10に内蔵されているソフトtobiiコミュニケーターにはいろいろなソフトが入っている。これは動物が11個ぐらい並んでいて、見る人がどの動物か目で選ぶと、動物が1個大きくなり、鳴き声が出る。 視線でパソコンが動くという因果関係が分かりにくい子どもでも、見ただけで変化するので、視線入力の概念が分かりやすいソフトである。

研究成果報告 この動物ソフトでは、目で選べない子どもも支援者が動物を一個選択しておいて動物の画面を大きくしておけば、注視しやすくなる。この動物のソフトは視線入力の最初の導入として適したものである。

ハンドサッカーと支援機器

研究成果報告ハンドサッカーは20年以上前から東京都の肢体不自由養護学校の教員の有志でルール作りや運営を行ってきた歴史ある競技である。

ほとんど健常者のように走って動き回れる生徒(肢体不自由校は内部障害だけの生徒も在籍する)から、指先しか動かせない重度障害の生徒まで、出たい意欲のある生徒は誰でも参加できる競技である。協議の中にスペシャルシュートというのがあって、そのときは生徒の実体に合わせて、認められれば、どのようなボールも使うことができる。ボールは直径1mもあるようなバランスボールや巨大なサッカーボール、ボッチャのボール、ソフトボールやテニスボールなど様々である。またスペシャルシュートの距離も生徒の実態に合わせて設定することができる。ピッチングマシーンやスイッチなどの支援機器を使うことも認められており、「合理的配慮」の行き届いたスポーツと言える。

本校から出場した生徒にもスペシャルシューターとしてピッチングマシーンでシュートする生徒がいる。手元の小さなスイッチを押し、ピッチングマシーンを操作してシュートを行う。ピッチングマシーンは上下の角度や左右の方向が一定であれば、ほぼ同一の飛距離と方向でボールが飛ぶので、教員がそれを設置してしまうと意味がなくなる。試合では生徒自身がピッチングマシーンの向きを口頭で教員に指示。ピッチングマシーンは台の上に置かれ方向が分かりやすいように長い棒がつけられている。初回のスペシャルシュートでは生徒が指示した方向の通りにボールが飛び、見事得点を挙げた。

研究成果報告2回目に廻ってきたとき、生徒が指示を出した方向は教員から見ると初回のときとはずれた方向であった。しかし、そこで口を出してしまえば、明らかにルール違反である。案の定、そのシュートは外れてしまった。こういうところで得点できることもあるし、できないこともある。しかしこれが生徒自身の判断で決まるということはとても大事なことである。四肢に重い障害がある生徒でも生き生きとこういったスポーツを楽しむことは卒業後の余暇やライフキャリアを考える上でとても大事なことである。そこにちょっとした支援機器の工夫で競技に参加することができる。最近は義足を履いた選手がオリンピック競技に出る時代である。今後、こういった例が増えていくのではないだろうか。

ワンキーマウスと在宅就労

障害者雇用のひとつの形態として在宅雇用(テレワーク)がある。肢体不自由校の生徒ではパソコンの操作は得意であるが、医療的な配慮が必要であったり、移動に困難があったりして、自力で企業まで通えないというケースがある。その場合自宅でも働ける在宅雇用はそういった障壁を気にする必要はない。在宅就労を目ざす生徒の中には上肢に障害があり、キーボードの操作が困難なケースがある。その場合、指先の操作だけでもPC入力が可能なワンキーマウスという支援機器がある。ワンキーマウスは本人の障害に合ったスイッチを接続して使用することができる。ある生徒は指先しか自由に動かすことができず、ワンキーマウスを使用し始めた。いろいろなスイッチを試行してみたが、それまで使用していたマウスをスイッチに改造して使ってみたら、うまく操作することができた。

特別支援教育では市販のものを多く使用するが、個々の生徒の実態に合わせるには、オーダーメイドでちょっとした改造や自作の教材があるとより効果的な場合がある。こういった視点も肢体不自由者のワークキャリアを考える上で大事なことである。

研究成果報告

〈参考文献〉
菊地一文(2012)「別支援教育充実のためのキャリア教育ケースブック事例から学ぶキャリア教育の考え方」11 14-28

 

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