教育研究グループ支援(研究成果報告)
理科生活科研究会
代表者 丹 伸子
学校名 葛飾区立梅田小学校
研究テーマ
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気付き、考え、学び合う子供の育成
~体験し、表現する理科・生活科の指導法の工夫~
研究期間:平成23年4月6日 から 平成24年3月15日 まで
研究結果の概要
研究の基本的な方向と意義
「教師は授業で勝負する!」小学校の教師が取り組む研究は、目の前の児童により良い授業を提供するための実践研究であることを基本に、教師一人一人が「チーム梅田」の一員として理科・生活科の得意不得意にかかわらず、教師自身が「共に学び、共に鍛える」姿勢で理科・生活科の授業研究に真摯に向き合った。
23年4月から完全実施の新学習指導要領の改訂では理数教育の充実を緊急性の高い重点と位置付けられた。現在の私達の生活は科学技術抜きには成り立たず、知識基盤社会化やグローバル化が進む世の中を生きる力には、科学的な思考や科学技術は未来を担う子供達に必要である。しかし、PISAやTIMSSの国際的な学力調査の結果から、状況を読み解く力・科学リテラシー・自分の考えなどを表現する力が、日本の子供の育成課題であることがはっきりしてきた。
科学技術は人類の英知の結晶だが使い方次第で、惑星探査機「はやぶさ」の奇跡的な地球帰還を可能にする一方で、原子力発電所の事故で未曾有の被害をもたらすこともある。また、3月11日の東日本大震災では、地震や津波など自然のエネルギーの脅威を見せつけられ、3・11後、私達は、学校の役割・生きる力などの価値の問い直しとともに、「自然」や「科学」と正対することに直面している。
理科教育の目標は学習指導要領に、「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。」と示されている。
科学は人間が長い間に構築した「実証性・再現性・客観性」の条件を検討する手続きを重視する体系的な文化であり、理科は、自然を愛する心情を育て、自然を科学的に学び、科学的な見方や考え方を養う教科なので、自然の事物・現象を対象とした問題解決学習がその中心となる。本研究では、科学的な見方や考え方を養うために、問題解決学習の過程を明確にして体験と表現を重視して授業の研究を進めた。
また、生活科の今回の指導要領改定の趣旨の一つに「気付きの質を高め、活動や体験を一層充実するための学習活動を重視する。また、科学的な見方・考え方の基礎を養う観点から、自然の不思議さや面白さを実感する学習活動を取り入れる」と生活科と理科の接続が明記され、1・2年生の生活科においても、科学的な見方や考え方のもとになる体験や表現を重視しているので、小学校6年間を通して、特別支援学級固定級も含め、「気付き、考え、学び合う」という問題解決の過程を大切に、児童の体験と表現を柱として授業の工夫を重ね研究を進めた。研究結果
【1.主題設定の理由と研究内容】
子供たちが将来、高度な科学技術をもとにした知識基盤社会で生きるために、基礎基本の学力・環境への取組・PISA型読解力(問題解決能力)が必要とされる。本校の児童はまじめだが体験が少なく、表現や学び合いが得意でないところがある。また、理科では「知識・理解・技能」に比べ、「科学的な見方や考え方」が弱い傾向がある。
理科・生活科は体験を基盤とする教科であり、「実感を伴った理解」に体験は欠かせない。また、体験は言葉によって価値付けされるが、観察・実験の結果の表現には言葉だけでなく絵・図表・グラフ・数値等も重要である。そこで、本校では体験と表現を重視して問題解決能力を向上させたいと考え、問題解決学習の流れをもとに「気付き、考え、学び合う児童の育成 ―体験し、表現する理科・生活科の指導法の工夫― 」を研究主題とした。
また、生活科では、理科の「科学的な見方や考え方」との関連をふまえて、「気付きの質を高める」活動の工夫に焦点を当て、共通の研究主題で研究を進めた。
【2.目指す児童像】
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6年生 |
5年生 |
4年生 |
3年生 |
1・2年生 |
あおぞら |
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体 |
要因や規則性を推論しながら多面的に問題を追究できる子 |
条件に着目しながら、問題を計画的に追究できる子 |
要因と関係付けながら、根拠をもって予想したり実験したりできる子 |
他と比較することを通して、根拠をもって予想したり実験したりできる子 |
自然に関心をもち、積極的に関わっていく子 |
自然と楽しくふれあう子 |
表 |
問題追究の過程を適切な方法で表現したり、科学的な見方や考え方で考察したことを言語化したりできる子 |
問題追究の過程を適切な方法で表現したり、科学的な見方や考え方で考察したことを言語化したりできる子 |
予想や仮説と関係づけながら調べたことを言葉や図表等で表したり、考察したことを言語化したりできる子 |
予想や仮説と関係づけながら調べたことを言葉や図表等で表したり、考察したことを言語化したりできる子 |
言葉や絵等を用いた友達との交流を通して、気付きの質を高め、気付きを共有する子 |
体験したことや、感じたことを伝える子 |
【3.指導計画の工夫】
- 学習過程と評価の観点のマトリクスを作成し、育てたい力を明確にした。
- 事前に児童に単元に関する先行経験や素朴概念のアンケート調査を実施した。
- 問題解決学習の流れと研究主題関係の具体策(特に体験と表現)を明確にした。
【4.研究経過】(以下の通り実施した。)
年度当初に基調講演会・年間6回の研究授業・年間3回の実技研修会・児童の意識調査2回・土曜日授業で3年生~6年生児童対象「理科工作教室」1回
【5.成果と課題】
- 教師が自信をもって理科の授業に臨み、問題解決学習の授業展開が広がった。
- 学習問題づくりで事象提示や共通体験を工夫し、児童一人一人が学習問題を明確にもてるようになった。学習問題づくりに向けた教材開発を進めたい。
- 児童一人一人の実験・観察の結果を表・グラフ・イメージ図により表現を工夫し、班や学級全体で情報を共有したことは、全体で考察や結論を導くために有効だった。
- 言語活動の充実を図る話型整理及び、理科と関係する算数の学習内容を整理した。この内容を活用し、場面・対象に応じた表現を工夫・改善することが課題である。
- 体験に力を入れてきた。自然体験と科学的な体験の吟味と充実が課題である。
- 発問や板書を工夫し、児童の科学的な見方や考え方を育てた。今後は、指導・支援に応じた評価(認め、励まし、価値付け)の充実とノート指導が課題である。
【6.その他】(研究を進める上での成果と課題)
- 単元ごとの実態調査は子どもの実態に沿った指導計画を立てられ、効果があった。 しかし、全体の意識調査の質問項目については今後の課題である。
- アンケート結果(意識調査)を見ると、現在学んでいる理科の学習が普段の生活や社会につながりを感じている児童が全体的に少ない。今後は獲得した知識や技能を利用して実際の自然や生活の中で見直したり、規則性などを適用させたりする指導をしていくことが課題である。
- 研究授業の全体協議会は、回数を重ねるごとに各分科会でまとめて記載したカード(ピンク:良かった所・学んだ所、黄色:意見・改善点、水色:疑問・質問)の内容が充実してきて、研究協議会の視点がはっきりとし、協議が深まった。