教育研究グループ支援(研究成果報告)
研究の概要
ダンス(身体表現)と歌で表現する戯曲「夕鶴」について~豊かな表現力を伸ばすには~
東京都立永福学園就業技術科 渡部朱美(ミュージカル部顧問)
踊ることも歌うことも身体トレーニングを怠っては成立しない。
舞台でいきいきと表現するとはどういうことか。特別支援学校の生徒は抽象的な言葉を投げかけてもこちらの意図が十分伝わらないことが多い。彼らは戸惑ったり、見当違いの行動をとったりする。そのため、支援する言葉や手段には慎重になる。しかし、彼らは自分自身で実感できることは素直に理解できる。骨格を意識し、背骨一本一本を動かすイメージと、動きの出発点は骨盤、ということを生徒に伝え、自分の身体を動かす前と後で可動域が変わっていることを実感できるように支援した。
具体的な動きを以下に記す。
- 手足を伸ばし、一直線に仰向けになる。
- 右ひじと右ひざを近づけて左わきをのばす。
- 上体を丸めながら起こし、左に脚を流した横座りになる。
- 骨盤を丸めてひざを鼻先まで上げてから反対の横座りになる。
- 背骨を捻り、目線は後方に向けながら、両手を床に着いて骨盤を返して腹ばいになる。
- さらに、骨盤を返して上体を起こし、横座りになる。
- おでことひざが近づいて背骨を丸める。
- 左わきを伸ばしながら、一直線の仰向けになる。
1.では腹部を引っ込めることを注意した。このことはあらゆる動きの中で一番大事なことである。見栄を張ってきついスカートやGパンをはく時のお腹だと伝えたところ、生徒はすぐ理解できた。それぞれの注意点は2.では伸ばす方の腰は床に着けておくこと。3.4.6.では横座りになった時には背骨を伸ばしていい姿勢でいること。5.では限界だと思うところまで上体を捻ることである。このトレーニングを取り入れてからバリエーションのあるダンスの振付が可能になった。また、姿勢がよくなったことにより、発声がよくなり歌唱にも自信がもてるようになった。
練習の早い段階から動きを録画し、誰がそのような踊り方をしているのか、どの方向を向いているのか、どこを見ればよいのか、ひとつひとつを振り返る時間を十分確保した。一人ひとりがイメージを持ちやすくすることを最優先に考えた。
楽曲選びには膨大な時間を費やした。楽曲は作品のイメージ作りに重要な役割りを担っているので、日本的な「夕鶴」の世界を大切にしながら『和』を全面には出していない曲を探した。実際、バレエやコンテンポラリーダンスのように身体表現の芸術は音楽があらゆる感情を表現する根底となっているので、選曲は膨大な数の楽曲からセレクトした。
「北とぴあ」の劇場空間は天井までの高さが10mあるので、その空間を照明効果で満たす工夫をした。一般演劇で多用されているムーヴィングライトは価格が高く、使用できないが、ディフージョンをかけてライトのラインが客席からはっきり見えるようにした。また、生徒が扱いやすい布を用い、それを操作することでプロセニアム空間を立体的に見えるようにした。
私たちが継続指導している身体表現力を向上させるトレーニングは劇場の空間で、のびのびと踊ったり、歌ったりすることを可能にさせた。それは筋肉や骨格の可動域が広がったことで心地よく表現できるようになるとともに、心理的にも余裕が生まれ、落ち着いて演技できるようになるからである。