公益社団法人 東京都教職員互助会

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教育研究グループ支援(研究成果報告) 詳細

映像活用研究会

1.映像コンテンツについて

私たちは、平成22年度の東京都教職員研修センターの事業である「東京教師道場」にて、2年間、教科「情報」の授業力向上を目指した授業研究を中心とした研修を行ったメンバーで結成されたグループである。「東京教師道場」では、参加者が毎月行う研究授業と授業観察、その後の研究協議、さらには、実践した授業についての意見交換やPDCAサイクルに基づいた授業改善などで授業効果を高め、授業力の向上を図ってきた。

「東京教師道場」での研究を行う中で、映像コンテンツの活用により、生徒の授業への参加意識の向上や、知識の定着度の向上が見られることがわかった。最新の情報機器の扱いや情報社会の特徴などを扱う「情報」という教科の特性上、生徒が知る必要のある知識は常に変容している。学校で使用する教科書の内容は時には古くなっているものがあり、現在の高校生には実感として理解しにくい話題もある。その部分を補うにあたり、様々な資料を用意するのも授業研究の一部である。中でも映像コンテンツは動画に慣れ親しんでいる生徒たちに受け入れやすいものであり、一斉授業の中に変化を与えることもできるとても良い素材であることがわかり、普通教科「情報」の授業の中で積極的に取り入れていきたいと考えた。

普通教科「情報」は、高等学校における他の教科に比べ、平成15年度から実施された「若い」教科である。この実施に備え、いろいろな方面から担当教員の養成のみならず、授業に直接関わる指導計画や指導方法、教材開発、実習事例、指導と評価の方法などの研修がなされてきている。さらに、地方自治体の教育研修センターや現場の情報教育研究団体、教科書会社、大学の研究者、教員などが書籍やWeb、研究大会等で情報教育の実践に有益な情報を提供している。一方では、指導態勢が「情報」担当が1人だったり、複数でも他の教科を合わせてもったりしていて、教材開発や指導事例などに教員が工夫しているものの、教育実践についての様々な情報が不足していたり、専門的な視点から客観的な意見を聞くことが難しかったりしている状況がある。

現場で実践を通して得られた貴重な体験や工夫、開発した指導事例を他の教員と共有し、それを基に新しい教育実践を生み出すことは、情報社会に健全に生きる児童生徒を育てていく情報科の喫緊の課題である。そこで、今までの授業研究や教材開発などを通して得られた経験を基に、教科「情報」の授業で指導・学習効果を期待できる様々なコンテンツを検索・製作・共有するための研究を行いたいと考えた。現場の教員が相互に活用できる指導・学習コンテンツ、さらには、授業や実習の展開、指導や評価方法などを共有し、情報交換することによって、広がりと深みのある授業が実践できる、特に授業の目的に応じたコンテンツを共有することが教科「情報」の教員の指導力のレベルアップや授業力向上につながると期待できる。中でも、本グループの主題となる映像コンテンツの持つ潜在的能力を鑑み、協力して検索・共有していくことを行いたいという考えが多くのメンバーの中で生じた。今回、このような形で協力体制を作ることができたことはとても意義がある。

2.映像コンテンツ調査

まず、グループメンバー各自が授業に用いるに相応しいと思われる映像コンテンツを探し出し、蓄積することから始めていった。1年間の授業の中で毎時間映像コンテンツを使用することは難しいが、単元に一つは用いることで、授業に刺激を与えられるのではないかと考え、単元ごとに用意できるようメンバー各自が探すことから始めた。

映像コンテンツの検索はとても難しい。教育用として用意されている映像は古いものが多く、現在の高校生に見せるには話題や技術面での問題がある場合が多い。最新の話題を取り上げていきたいと考えるときにはテレビ番組などで取り上げられたものを使用する場合が多くなるが、一人で多くの番組を見ることは物理的に不可能である。そこで、各自が適すると考える映像コンテンツを蓄積することで、より良い教材を増やしていくことを目指した。

最初に行ったのが、動画サイトによるキーワード検索によるものである。検索を行うと、各企業がCMのようなものを提供している場合があり、それがとても良い素材であった。企業のイメージアップを図るものであり、広告的要素が強すぎると使えないが、情報技術について簡単に説明しているものや、魅力的に見えるように工夫されているものが多く、最新技術を紹介する場面で使えるものをたくさん見つけることができた。また、個人が公開している作品の中でも、良いものがたくさんあった。このようなものは、授業で見せるにあたり一言説明が必要になるが、高校生にとっては身近な話題が多く、親近感を持って見ている場面が多く見受けられた。

次に行ったのが、キーワード登録によるテレビ番組録画であった。保存できる容量に余裕があれば、授業に使いたいキーワードを多く設定することで、映像コンテンツの量は増やすことができる。しかし、キーワードが一致しても、授業内容に組み込むには内容が偏っていることや、場合によっては専門的すぎて高校生に向かない場合もある。結果、録画してもそのまま削除する場合もあった。

以上のように、優れた映像コンテンツを取得するには相当の労力と時間が必要となる。今回はグループとして活動することができたので、各自が工夫を凝らして映像コンテンツの収集にあたることができた。また、過去に使用したものなどを再度紹介することも行い、映像コンテンツの保有量を増やすことができたことが一番の成果である。

また、各自がその映像コンテンツをどのように活用していくかを指導案の作成などを行い、具現化していった。今回の会合までには指導案を作る時間がない教員も多く、授業で用いるワークシートを提示することで、どのタイミングでどの程度の時間を使って映像コンテンツを活用するかを示すという形もあった。どのような形であれ、映像コンテンツをどう活用するかを示す資料を提示することで、効果的な使用方法を模索しようとしていった。更に、その授業での生徒の様子や、後にも触れるが尺の問題など問題点を持ち寄ることで、授業改善を行う機会を持つことができた点も非常に良かった。

3.映像コンテンツ評価

夏にメンバーが集合し、各自が持ち寄った映像コンテンツを見て、どのような授業に適しているか紹介し合う時間を取った。更に、一歩踏み込んで効果的な使用場面を検討する機会を設けた。

情報科は一人教科のため、学校内で授業を評価することが難しい。各自が適していると考えている映像コンテンツも、視点を変えると他の部分で用いた方が高い効果を挙げられるだろうという映像コンテンツもあった。様々な意見交換を行うことで、実り多い時間を持つことができた。中でもこの会合で明確化した課題の一つとして、映像コンテンツの尺の長さの問題が挙がった。

情報技術に関する映像コンテンツを評価している時点で気づいたが、映像コンテンツの内容はとても良いものであった。元がテレビ番組ということもあり、視聴者に飽きさせない工夫や、視覚的効果などがとてもよくできていて、コンテンツとしてはかなり良いものだという意見が多く出た。しかし、問題はその長さであった。すべてを見ると30分を超えるコンテンツであり、標準的な50分授業の中で見せるには、事前・事後に説明する時間が短すぎる。また、視聴者に飽きさせないようにという意図はとてもよく伝わるのだが、現代の高校生にとって30分間映像だけを見て過ごすのは少し酷なのではないかという意見が出たのである。実際、その映像を2度目・3度目と見ていく教員にとってもこの長さは問題があるという結論に至った。しかし、その内容自体は使いたいものであったため、映像に手を入れて短くできないかという検討を行った。著作権の問題もあり、簡単に改変する事はできない。授業内容にピンポイントで適合する部分だけを見せるという授業も行うことができるのだが、背景等を含めて番組が作られていたため、見せたい部分を精査する作業は困難が多いということもわかった。情報科教員が一人でその作業や、時間短縮の検討を行っていくのは負担が大きく、結果30分の番組をそのまま用いるという状態になるのが目に見えている。この問題点に関しては、継続的に会合を行い、様々な意見を取り入れることで、より良い映像コンテンツの使用方法へと変更させることができないかと期待するところで会合が時間切れとなった。今後も継続して検討していきたい。

4.映像コンテンツ共有

会合を開き、様々な意見を持ち寄ることでより良い映像コンテンツの使用方法を検討できることがわかったが、全メンバーが定期的に会合を持つことは難しい。そこで、Webサーバーにお互いが良いと思ったコンテンツを置き、メンバーならば自由に閲覧することができる場所を用意し、使用方法や、尺の問題などの相談を投げられる場を持つことにした。情報科教員の集まりであり、メンバーにWeb関連の技術に長けているものがいたため、この目論見が実施できることになった。

映像コンテンツはどうしても容量を多く取るものである。そして、すぐれた映像コンテンツはたいがい長時間のコンテンツであることが多い。教員自身はその長編をすべて見た上で、授業で用いるべき部分を決め、生徒に見せるということを考えると、最初から短いコンテンツを用意するべきではないと考えた。各学校のレベルや置かれている地域にも違いがあるため、どのように見せるかは最終的には担当教員の腕の見せ所となる。

ただ、先にも述べたとおりすべてを一人で検討するには時間がなさすぎるのも現状であり、他の教員が先行実施した例をそのまま用いることもできればと考えている。そこで、ある程度容量の大きなWebサーバーを用意し、そこへのメンバー登録を行い、映像コンテンツのアップロードやダウンロードを自由に行えるようにした。メンバーは、各自が見つけ出した映像コンテンツをその場にアップロードし、使用方法や使用後の感想等も共有し、さらに他のメンバーが追試していくことで、コンテンツの使用方法を成熟化させていくことが可能である。授業の指導案なども共有することで、映像コンテンツだけではなく、授業全体の完成度をあげていくことにもつながり、授業研究を行う上でとても良い場所を作り出すことができた。

5.研究のまとめ

本研究を行うことで、授業研究の重要性や、指導内容についての検討がとても重要であることを再認識することができた。また、映像コンテンツの活用方法が的確であった場合の効果も高いことが再認識できた。しかし、映像コンテンツの検索は先にも述べたとおり労力がかかる。一人で実施していく負担感は否めない。映像コンテンツの共有化を図ることができたことは、今後の授業研究の負荷を考えると大きな成果である。しかし、グループメンバー以外への公開についてや、そもそも映像コンテンツの著作権の問題もある。授業で用いることに関しては問題ないが、共有化を行うに当たっては抵触していく可能性がある。この問題に関してどのように解決していくべきか、更なる議論が必要となる。

また、映像コンテンツは日々更新すべきものである。今良いと思えるものであっても、1~2年経てば古い素材となってしまう。これからも多くの目でより良い素材の探索を続けて、より良い授業に繋げていきたいと考えている。

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