教育研究グループ支援(研究成果報告)
研究推進グループ
代表者 千葉千恵
学校名 中野区立南中野中学校
研究テーマ
- 思考力・判断力・表現力を育む授業の工夫改善-言語活動による活用型授業を通して-
研究期間:平成23年4月1日 から 平成25年3月31日まで
研究結果の概要
【1】主題設定の理由
本校は「平成21年度・22年度中野区の特色ある学校づくり」重点校における研究として、ICT及び少人数指導の活用と効果について研究した。研究の成果の一つとして、授業中の話し合いなど生徒の主体的な活動が学習意欲の向上につながったことが挙げられる。しかしながら、生徒の思考力・判断力・表現力の育成には依然として課題がある。また、経済協力開発機構(OECD)が実施した生徒の学習到達度調査・PISA調査などの各種の調査の結果からも、知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等の課題があることが明らかになった。
平成24年度から中学校で新学習指導要領が全面実施されているが、総則の「第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」において、「生徒の思考力、判断力、表現力を育成する観点から、(中略)生徒の言語活動を充実すること。」と示されている。授業中の言語活動をより活発化させることで、基礎的・基本的な知識・技能の習得とこれらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の育成を目指していきたいと考え、上記の主題を設定した。
【2】研究のねらい
- 言語活動を取り入れた活用型授業を推進し、教員の授業改善と生徒の学習意欲の向上を図る。
- 言語活動の活用法や効果について検証し、教員間で共有することで言語活動を取り入れた授業の充実を図る。
- 言語活動を積極的に取り入れた授業を展開し、生徒自ら課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の育成を図る。
【3】研究内容
(1)効果的な活用型授業の検討(分科会)
全教員が3つの分科会に分かれ、効果的な活用型授業について検討した。授業者が提案した学習指導案をもとに、言語活動の方法や発問の内容など、活発な意見交換が行われた。特に、教科の目標と授業内容を照らし合わせ、言語活動が目的となっていないかを重点的に確認していった。2年間で4回行われた分科会の中から平成24年5月23日に検討された「言語活動による活用型授業」は以下の通りである。
第一分科会【国語・社会・英語】
教科 | 単元 | 主となる言語活動 |
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社会 | 憲法が保障する基本的人権 | 「監視カメラを設置するべきか」について、肯定派・否定派の立場に分かれ、立論を立てるための話し合いを進めていくとともに、相手からの反論を予想し、返答の内容を検討する。 |
第二分科会【理科・技術・保健体育】
教科 | 単元 | 主となる言語活動 |
---|---|---|
理科 | 天体の一日の動き | 「太陽は東から昇って南を通って西に沈むのはどうしてか」という課題に対して班毎に取り組む。班員の半分が隣の班に移動し、話し合いの結果を発表・質疑応答を行う。 |
第三分科会【数学・音楽・美術】
教科 | 単元 | 主となる言語活動 |
---|---|---|
音楽 | 歌唱(花) | 既習曲「花」について、曲のイメージや注意して歌いたい内容をワークシートへ記入する。2人組となり、お互いの歌を聴き合い、工夫できるところを見つけて相手に伝える。 |
(2)効果的な活用型授業の検討(研究授業)
分科会での話し合いをもとに活用型学習指導案を作成し、研究授業を実施した。平成24年6月21日に行われた社会・理科・音楽の授業について以下に述べる。
社会では、昨年度行われた国語の研究授業(平成23年度第7回校内研修会)を受けて「監視カメラを設置するべきか」という話題についてディベート形式で討論会を行った。討論をふまえたうえで自分の意見をノートにまとめていった。理科では、「太陽が東から昇って西に沈む理由」と「火星が北の空に見えない理由」を班で話し合い、話し合いの結果を隣の班を相手に発表した。発表の際、「小学四年生に説明する」という条件をつけて、分かりやすく説明するように心がけさせた。音楽では、既習曲である「花」を歌い、自分の気に入った風景・曲のイメージ・歌う際の自分の課題等をワークシートへ記入した。相手を決めてお互いの歌を聴き合い、工夫できる点等をアドバイスし合った。
授業参観や記録は分科会毎に行い、授業後の協議会では、分科会の代表が授業内の言語活動における課題と成果についてビデオ撮影した授業の様子を大型テレビで共有しながら発表し、言語活動への取り組みを共有した。
(3)専門家を講師に招いての活用型授業の研究
研究授業の後には、東京女子体育大学教授田中洋一先生から指導講評をいただいた。平成24年6月21日に行われた研究協議会での内容は、以下の通りである。
- (社会について)ディベート形式にしなくても「討論会(ディスカッション)」でよい。生徒が授業前後で意見を深められていた点や、考えたことに対して成就感を持たせることができる授業であった点において、大成功の授業である。
- (理科について)「小学生に説明するつもりで」という設定は大変良いが、「小学4年生」と学年までも限定すると、小学4年生の段階でどこまでの知識が備わっているかを確認する必要がある。また、最後のまとめで、絶対に落としてはいけない内容を教師がまとめていく必要がある。
- (音楽について)工夫された授業で、生徒同士のアドバイスの効果がとても出ていた。歌詞の内容から歌い方を考えさせたり、歌を評価するときにどのような言葉を使えばよいか伝えたりといった言語活動のポイントや視点をしぼった授業が大切である。
(4)統一指導案の作成
田中先生から、指導案の書き方についてもご指摘いただいたことで、全教員が同一書式で指導案を作成し直し、言語活動を行う上での視点や手順が多くの方に伝わりやすくなった。次頁に指導案の統一様式と記入上の注意点を示す。
(5)生徒の実態把握および研究成果の検証
平成23年度の全国学力・学習状況調査の問題を活用し、平成24年度の4月と12月の2回にわたって全国学力・学習状況調査の問題を3年生対象に実施した。
実施した問題の中から主として「活用」に関する問題である【国語B】と【数学B】の問題から、各年度から9問ずつ(国語Bから4問、数学Bから5問、全て筆記問題)抽出して分析した。調査・分析内容は、解答率(解答問題数/(抽出問題数×生徒数))の変化である。以下にその結果を示す。
本校では全校生徒対象に学校評価アンケートを実施している。その中で、学習面に関する2つの質問に対する回答について、平成22年度から今年度までの3年間の変化を下記に示す。
【4】研究の成果と課題
(1)研究の成果
- 多くの教科で言語活動を取り入れた活用型授業が行われ、授業の中で生徒が主体的に思考を重ね、課題を解決しようとする場面が多くなった。
- ホワイトボードの効果的な活用により、発言や発表が苦手な生徒でも、自らの考えを容易に表現することができ、意欲的な授業参加へとつながった。
- 研究のねらいを、「言語活動による活用型授業の推進」にしぼり、分科会での協議を通して学習指導案や教材開発に取り組んだことで、教員の言語活動に対する意識も高くなり、授業改善が図れた。
- 全国学力・学習状況調査の解答率が国語・数学ともに大幅に上がっていることから、今年度多くの授業で言語活動による思考力・表現力の育成が図られ、自分の考えをもつことができる生徒が増えた。
- 生徒アンケートの結果から、言語活動が効果的に取り入れられた授業が増えたことにより、主体的に授業へ取り組む生徒も増えたことが分かった。
(2)今後の課題
- 今回の研究で、全生徒の思考力・判断力・表現力の育成が十分に図れたわけではないが、現在進めている研究の成果を生かして、来年度以降も全教員で授業改善に取り組んでいく必要がある。
- 言語活動の活用による思考力や表現力の効果的な評価方法を確立していく必要がある。
- 他校の活用型授業の実践例を研究し、本校の授業改善に役立てる。
- 言語活動による活用型授業を、より効果的にする教材・教具を開発する。