公益社団法人 東京都教職員互助会

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教育研究グループ支援(研究成果報告) 詳細

はなみずき

1.はじめに

東京都では、特別支援教育の実施に伴って情緒障害等通級指導学級への通級児童が急増している。同時に、東京都公立小学校の当該学級への配置教員は、経験年数0~3年未満が57%、3~5年未満の23%を加えると、全体の8割に達する(東京都公立学校情緒障害教育研究会、平成22年5月調査)状況である。設置学級数の急激な膨張に伴って、指導の質的確保が危惧される状態にあると言える。

本学級および本市公立小中学校情緒障害等通級指導学級においても、5年以上の経験者は4割(平成24年4月現在)に満たない。効果的・効率的な指導を具現化するためには、組織的な指導体制の整備が喫緊の課題である。

東京都における自閉症・学習障害・注意欠陥多動性障害等を対象とした情緒障害等通級指導学級では、応用行動分析(ABA)やソーシャル・スキル・トレーニング(SST)の考え方や手法を取り入れた指導が注目されて久しい。平成19年に特別支援教育が法制化されてからは、数多くの学級が授業に取り入れて一定の効果を上げている事例も報告されている。

しかし、以降は筆者の印象であり統計的調査に基づいたものではないが、一旦通級を始めた児童は、公立小学校の在籍中はずっと週4時間程度の通級を利用することになる印象が強い。そして、本人や保護者または(学級・教科)担任教諭等が、「在籍校や家庭あるいは地域での生活が通級当初より格段に改善された。」と言う実感と共に、通級時間を減らしたり退級したりする事例をあまり耳にしない。ABAやSSTを指導の中核に据えている情緒障害等通級指導学級では、「指導・支援の般化」の観点が不十分な状況が推測できるのである。

2.研究の目的

グループ「はなみずき」では、効果的・効率的な指導・支援の提供を目標に、個別指導計画とティーム・ティーチングに関する研究を行い、一定の指導効果を上げてきた。しかし、教職員の異動による人材流出と新規採用者等を配置する傾向は、改善される見通しが立たない。従って、学級自らが組織的指導体制の整備プログラムを作らざるを得ない現状がある。

そこで、平成24年度は、下記4項目に関する研修及び実践研究を行い、情緒障害等通級指導学級の専門教員の育成プログラムとして、第一次案を示すものである。

まず、新任者のみならず相当な経験者であっても、「個別指導計画の立案と項目の記述観点」に関して、明確にする技能が必要である。次に、個別指導計画に基づいた指導目標を達成するために、「小集団活動を活用した個別の指導」を具体的に展開する方策を示すことが求められる。そして、「通常の学級担任としての学級経営における支援観点」を踏まえた上で、通級における指導・支援を組み合わせ、在籍校教職員への情報提供がなされる必要がある。さらに、上記の教育活動が、通級本人にとって日常場面で般化できるよう、「情緒障害等通級指導学級設置校における発達障害の特性に関する理解教育」が重要となると考える。

本研究では、4項目一つ一つの効果を確認しながら、全体として情緒障害等通級指導学級の組織的指導体制の整備を目指すものである。

3.情緒障害等通級指導学級における個別指導計画

【1】個別指導計画の作成目的
(1)直接的な指導・支援者である自分自身の指導計画書
  1. 児童の特性把握
    適切に取得した資料や聞き取りから、児童の特性(課題とリソース)を指導者自身の技能に応じて分析する。指導効果を具現化するために必要な情報を抽出して表記する。
  2. 指導効果の具体的表記
    前期・後期共に約16回(週1回通級の場合)の指導で、児童にどのような良い変容をさせるかを、優先順位を考慮して、数個程度の達成可能な指導目標として具体的に表現する。
  3. 達成に至る指導方法
    変容をもたらすために、効果的・効率的指導はどんなものであると考えているかを明示する。指導効果の実現に向けては、法律と倫理に反しない範囲で、常識や既存方法にとらわれないことが必須である。一般的方法で改善可能ならば、通級に至らずに生活できているはずである。
(2)保護者への情報提供としての資料
  1. 信頼関係の形成
    「私は、◯◯さん(児童)をこのように見ています。一緒に支援していきましょう。」という姿勢を伝える。例えば、「注意散漫」と「興味により集中が影響されやすい」と、何れの表記が保護者の心情に沿うかは、保護者自身がそれを主訴とするならば、そのまま記載する場合もある。
  2. 具体的提案
    いつまでに、どのように、○○さん(児童)の状況改善を図るかを提案する。
  3. 方法や手段の明記
    状況改善をもたらすために、どのような指導・支援方法をとるのかを具体的に提案する。
(3)在籍校の教職員への報告文書
  1. 児童の特性に関して、学校で役立つ情報
    数字や専門用語は、表面的印象が強い物であることを承知した上で使う。背景理解なく断片的な情報が独り歩きしないよう、注釈を加えたり平易な表現に変えたりして使用する。
  2. 専門性の提示
    通級指導学級として、特別な環境と専門的指導により、児童にどのような力を付けることを提案するのかを、明確に提示する。
  3. 在籍校における支援者にとってのメリット感
    通級による指導が、児童本人の状態改善にどのような効果をもたらし、それが在籍学級と学校へのどのような良い影響につながるかを伝える。
【2】「指導目標」・「指導内容」・「てだて・留意点」の観点

「指導目標」は、半期で達成可能と考えられる児童像である。保護者や学校教職員が、可能な限り映像化できる程度に詳細に記述することを目指す。

「指導内容」は、実際に指導する言動や技術等の状況である。指導目標の児童像として、児童自身が主体的に行動する状況が具体的に分かるように記述する。

「てだて・留意点」は、指導内容実現のための道具や場面設定や、在籍校での配慮事項である。

指導者が「てだて・留意点」を使ったり設定したりして、児童が「指導内容」を自主的に言ったり行動したり考えたりすることで、「指導目標」が円滑に実現することを目指すものである。

4.通級指導学級担任研修会での事例検討

【1】小集団における児童Aの指導実践報告

児童Aが、1学期と2学期に話し合い活動で司会を務めている状況を映像により比較した。

在籍学級でのAは、自分本位に物事を進めたり相手の意見を聞かずに主張したりしていたので、友達とのトラブルが頻発していた。

そこで、通級指導の小集団活動で、Aが相談活動の司会や活動リーダーを務めながら周りの友達の意見を聞き入れる状況を体験できれば、在籍学級での現状が改善すると考え、個別指導計画の指導目標を「周りの状況を見て自分の言動をコントロールすることができる。」とした。

1学期に司会や活動リーダーをさせると、自分本位に進めてしまうために周りの児童から注意を受けていた。Aはなぜ上手く司会が出来ないのかを愚痴をこぼして悩んでいた。そこで、3・4人の小集団や6~8人の相談活動で司会や活動リーダーに指名し、指導担当が援助をしながら経験を積ませたり、Aのできている部分を具体的にほめたり、どうすればよかったかを具体的に伝えたりして、次も頑張ろうという意欲をもたせるようにした。

2学期の場面では、成功体験として積み重ねた具体的な言動が、6~8人の相談活動でも自主的にできるようになっていた。そして、活動を決める際に、周りの大人も挙手していいのかを質問された時に、一人で決めずに書記や他の高学年児童の意見も聞きながら進行をしていた。

【2】小集団における児童B・C・Dの指導実践報告

児童B・C・Dが、1学期と2学期に関わり遊びをしようとしている様子を映像で比較した。

在籍学級でもB・C・Dは、興味・関心の幅がせまいため友達関係が広がっていかなかった。それぞれ自分の興味がある話には積極的になるが、それ以外の話題では会話に参加しなくなったり、自分の世界に入ってしまい別の事を始めたりしていた。

そこで、通級指導では、3人の関係を作ることで、興味・関心の幅を広げることを目標にして、3人でQ&Aを行った。例えば、Bが質問を受ける時は、C・Dと周りにいる大人が一人一つずつ質問をしてBが答える、といったやり方である。大人が考えた質問内容は、「好きな色」「好きな季節」「好きな場所」等であった。

しかし、1学期のB・Cは、「好きな電車は?」や「好きな駅は?」等の電車に関する質問ばかりであった。B・C同士では、この質問のやり取りは意欲的だが、Dには全く興味がないので「分かりません。」「知りません。」と答えていた。そして、Dは「好きなゲームのキャラクターは?」や「マリオの必殺技で好きな技は?」等のゲームに関する質問ばかりしていた。BとCは興味を示さずに「分かりません。」「知りません。」と答えていた。3人とも毎週、同じ質問を続けたので、互いに答える意欲がなくなる姿が見られた。

そこで、大人が「好きな食べ物は?」「夏休みに楽しみなことは?」など『普通の質問』をして、別の大人が「いい質問が出た。」や「この質問いいな。」などと、『普通の質問』を強調した。そして、3人が『普通の質問』をした時にも、「いい質問が出た。」や「この質問いいな。」などの声かけをし続けた。

2学期では、1学期には一課題中5回くらいあった電車やゲームに関する質問が、2回くらいに減り、3人とも『普通の質問』を2~3回するようになった。互いの電車やゲームの質問にも自分の気持ちや知っている事柄で返しながら、意欲を失うことなく活動を続けられた。

5.通常の学級担任としの学級経営における支援観点

発達に偏りのある児童が在籍する学級を担任した経験のある元学級担任に話を伺った。

低学年児童は学級担任の指示が「絶対」という思いが強い。そのため、担任の話をよく聞く児童が他の児童に強い口調で担任の「絶対」を正論で強要することがあり、児童同士で、注意する側、注意される側という階級が生じてくる。注意をし合うことが児童の自主性ではなく、児童同士が無意識の中で序列をつけるこのことにつながる。そのような階級を生みださないために、教員は、注意するのは教員の役目であることを児童に伝え、児童同士で注意させないことを徹底することが大切だ。

特に低学年児童に関しては、生まれ月による発達の違いが運動能力や学習能力などに大きく影響している。さまざまな実態の児童が在籍する中、全児童が同じ土俵に立ち、授業に参加できることを目標に、日々の授業を展開している。

【1】リズム感を大切にする
  1. 授業の進度から遅れやすい児童を教員がずっと待っていると、周囲の児童から「早くしろよ。」と非難されることにつながる。すでに課題が終わった児童に対して新しい課題を与えることで、遅い児童へ注意が向かないように配慮する。児童が非難される環境を教員が積極的に回避することが望ましい。
【2】無理強いはしないが無視もしない
  1. 課題に対する関心が無い児童に説得してやらせようとしても、効果はほとんどない。周囲の児童が楽しい雰囲気で参加していれば、いずれ興味が生まれて自然と課題に参加できるようになる。この気持ちが自然とわき出てくるまでそっと見守ること。課題への参加を無理強いしないが、集団の雰囲気を感じられる居場所を確保した上で、一度冷静になる時間を設けることが大切だ。
【3】全ての児童が授業に参加し輝けるようにする
  1. 全児童が参加できるような環境を整えたり、言葉を丁寧に理解したりする過程を大切にする。例えば、課題に対する答えの選択肢を用意したり、抽象的な言葉について想像を広げ、具体的にイメージできる程度までに表現を噛み砕いて理解を助けたりする。
  2. 技術的な学習では、目立たない児童の得意なことを取り上げる配慮をすることで、全ての児童に輝ける出番を設定する。
  3. 何でもかんでも褒めるのではなく、課題や期待に対して児童が努力したときに十分認め称賛する。褒める際には、具体的に児童に伝えることを大切にしている。また、黒板に書き出し、視覚的な情報提示を行う。褒めることで、教員が全ての児童を分け隔てなく「あなたが一番好き」と伝えていることにつながる。

さまざまな実態の児童を理解し、学級経営を進めることが重要となる。苦手なことがあっても特別扱いせず、教員がその児童のペース、その児童らしさを認めることが大切である。短所と言われる個性も視点を変えれば長所をなることを教員が認めることで、発達に偏りがあり苦手なことがある児童も学級でのポジションを得ながら、周囲の児童とともにのびのびと学校生活を送れるようになる。

6.情緒障害等通級指導学級設置校における発達障害を中心とした理解教育

【1】低学年への実施

通級指導学級のプレイルームで理解教育のための時間を設定した。小学校1~3年生の各学級約30人を対象に、6月~7月中旬の中休み・昼休み約20分間を利用して、通級指導学級に対して「楽しく明るいイメージを伝える」ことを第一にして実施した。

通常の学級ではほとんど見かけない用具を手に取ったり遊具で遊んだりして、施設内で10分ほど活動した。その後、通級指導学級担任が、7分程度の話をした。年齢や校内通級児童の有無等を考慮しながら、個人の中にある得意・不得意に関すること、誰でも必要な手助けを受けられると元気になること、通級指導学級での具体的な学習内容等を説明した。

体験後には、校内で通級指導学級の教員に自分から話しかけたり、休み時間に施設を訪ねてきたりする児童が増え、学級によっては誘い合って休み時間に遊びに来る集団も見られた。

【2】高学年への実施

小学校4~6年生の6学級各30人程度を対象に、9月~2月に45分間の授業を実施した。

(1)5年生への授業
  1. 授業者の考え方
    障害理解は「障害のある人に関わるすべての事象を内容としている人権思想、特にノーマライゼーションの思想を基軸に据えた考え方であり、障害に関する科学的認識の集大成である」と定義できる。本学級では、障害理解を進めていく教育を障害理解教育、障害理解教育の中で行われる個々の教育活動を障害理解指導、障害理解を促進する啓発活動を障害理解活動とする。
    障害理解の考え方により共生社会の実現を目指すことは、人間を評価する「ものさし」の多様化につながり、すべての人間の価値がお互いによって認められることになる。また、障害理解は「障害に関する科学的認識を持つこと」であることも特徴である。障害のことを正しく理解し適切な接し方をすることが大切であると考え、5年生に対して授業を行った。
  2. 授業の概要
    「◯◯学級はどのような学級なのでしょう。」という単元名を設定し、「◯◯学級について興味・関心を持つ。」「◯◯学級での学習を体験し、何のためにするのかを考える。」ことを目標として設定した。内容としては、「◯◯学級で前に遊んだことを思い出し、今日の課題を知る。」「◯◯学級ってどんな学級」「よいところや疑問を考える」「◯◯学級の指導の学習体験をする」「◯◯学級の紹介を聞く」などのことがあった。
    具体的には、◯◯学級での授業を体験するため運動・個別・創作の一部を3つのコーナーに分かれて実施し、体験した後にその目的を考える時間を設定した。その後、◯◯学級の説明を聞くことにより、通級指導学級の意図することに気づいたり、◯◯学級の学習や活動について興味・関心を持ち、通級する児童を理解しようとしたりする児童も多くいた。
    (授業後の児童の感想)
    • ◯◯学級でどんな学習をするのか、どんな子供が行くのかが分かりました。
    • 授業を受けて人とコミュニケーションをとることの大切さを知りました。
    • ◯◯学級の学習で「どんな人が来るのか」「どんなことをするのか」が分かりました。
    • 自分の得意なことを発揮し苦手なことは個別で学ぶ、楽しい学校生活を支える学級です。
    • ◯◯学級とはだれのためのどんな所で何をしているところかがよくわかり、◯◯学級ってすごいと思いました。

7.考察

東京都の情緒障害等通級指導学級における個別指導計画の書式に関しては、特別支援学級教育課程編成の手引(平成23年3月)に資料編として示されている他、一部の区市町村で様式を定めている例がある。しかし、個別指導計画の立案目的と項目の記述観点については、実際の作成に応じて明確化されている例はほとんどない。今回試案として示されたものは、本市と本学級の設置環境下においては、教員個々の専門性の段階に関わらず、適切に作成され実践可能なものであると言える。ただし、指導的教員の存在は不可欠であり、様式や記述観点のマニュアルのみで、指導効果が実現できるものとは言えない現状がある。

次に、小集団活動を活用した個別の指導については、指導の前後両方に関して、児童の活動の実際を見ながら第三者の目から評価することの重要性が示されている。しかし、本文では場面設定の効果検証が充分とは言えない面がある。特に児童B・C・Dの関係性については、複数の具体的な言動を比較することによって、指導効果を論じる必要がある。

そして、通常の学級担任としの学級経営における支援観点に関しては、実際に通級児童を複数回担任したベテラン教諭から学ぶことができた。学級集団と学級担任の関係性の把握については、通級指導学級の担任として念頭に置いて指導・支援を行いたい。特に、低学年児童には教員の言動一つ一つがモデルであり、意図するとせざるとに係わらず学級集団に大きな影響を与えることには、常に留意すべき点である。

最後に、情緒障害等通級指導学級の設置校における発達障害の特性に関する理解教育について述べる。徳田克己(2006)は、障害理解のレベルを、気付き・知識化・情緒的理解・態度形成・受容的行動の5段階として示している。ただし、その各段階で行われがちなスローガン的言葉かけに危惧を示している。情緒障害等通級指導学級の設置校では、第1段階(気付き)に関しては、児童は入学以来日常の学校生活として充分に体験することとなる。しかし、適切な障害理解教育が伴わない場合には、その体験は肯定的・親和的な出来事よりも、不安や怒りなどの否定的・対立的なものが強く心象に残ることがある。

そこで、本研究では、特に第2(知識化)・3(情緒的理解)段階の理解教育に重きを置いている。低学年の学級集団には、通級指導学級全般のイメージ形成を第一目的としている。高学年学級では、通級指導学級での学習活動を客観的に捉えられるような発問を投げている。その成否が個々の児童の価値観や人間観に強い影響を与え、ひいては次の第4(態度形成)・5(受容的行動)段階の具現化の基盤になると捉えている。この授業形態の工夫の効果は、次年度以降実施される第4・5段階の授業において検証されることになる。

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