教育研究グループ支援(研究成果報告) 詳細
自閉症教育研究会
- 自閉症の生徒の理解と指導法について
本研究の内容は以下の通りである。
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自閉症に関する基本的理解
自閉症の生徒に関わる際の基本的事項を7点にまとめた。併せて、自閉症教育の最近の動向を制度の面から概観した。 -
ライフステージから見た自閉症教育
これは、本研究の成果の発表の一つとしても位置づけた講演会(平成24年8月29日 講演テーマ:「高等部から見つめる自閉症教育 ~ライフステージに応じた指導の充実~」講師:山内章 会場:東京都立板橋特別支援学校)の内容の一部である。 -
自閉症の指導Q&A
日々の授業研究やケース研究を踏まえて、自閉症指導において教師がぶつかるであろう課題をQ&A方式でまとめた。紙面の関係で、ここでは代表的な2項目を掲載した。
1.自閉症に関する基本的理解
【1】関わり方の基本
- 障害特性を正しく理解し、一人一人の自閉症の違いを知る。
- 信頼関係を構築する。
- 理解に苦しむ行動や反応も、周囲のかかわり方や状況が引き出している場合もあることを認識する。
- それぞれの行動パターンや認知パターンを尊重する。
- 一時的な教育効果だけではなく、将来の見通しや地域資源の情報に基づいて、長期的な視点に立つ。
- 家庭や関係機関との連携を図る。
- 個人に起因するものだけでなく環境との相互作用を重視する。
cf.「国際障害分類改訂版(ICFモデル)」2001年 WHO
【2】障害特性について
- 対人的相互交渉の質的障害
- コミュニケーションの質的障害
- 興味の限局性や常同的・執着的行動
- 認知(情報)処理の特性
- 般化の困難性
【3】最近の制度的動向
- 「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」平成13年
- 「これからの東京都の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 平成15年
- 自閉症学校の開始 平成16年
- 自閉症教育の推進事業 平成16年度~
- 発達障害者支援法の施行 平成17年
- 自閉症の個別指導計画改善検討委員会報告書 平成17年
- 知的障害養護学校の自閉症の教育課程の研究・開発事業報告書 平成17、18、19年度
- 学校教育法施行規則の一部改正 平成18年度
- 段階的に自閉症の教育課程、自閉症学級を導入 平成18年~
- 学校教育法の一部改正 平成19年度
- 世界自閉症啓発デーの採択(毎年4月2日)
- 特別支援学校学習指導要領の改訂・告示 平成21年度
- 自閉症に対応した教育課程の在り方に関する調査研究事業(20指定校) 平成21年~
- 東京都特別支援教育推進計画 第三次実施計画 平成22年度
- 知的障害特別支援学校(小中学部)全校に自閉症の教育課程、自閉症学級の導入 平成22年度
- 「知的障害特別支援学校小学部自閉症学級指導書 社会性の学習」の作成 平成22年度
- 「知的障害特別支援学校中学部自閉症学級指導書 社会性の学習」の作成 平成24年度
※文字がオレンジ色のものは東京都の動向である。
2.ライフステージから見た自閉症教育
【小学部段階】 社会性、コミュニケーション、認知を中心とした指導
~学習の準備から積み上げ~
- 学習態度やコミュニケーションの方法、アカデミックレベルの向 上が中心である。
- 一緒に活動することを通して、好きな人、頼れる人という認識を育てる。
- 構造化や視覚情報の活用により分かりやすい学習環境をつくる。
- 基本的な意思を育み、人との関係を少しずつ広げながら集団への参加を段階的に促す。
- 地域の様々な社会資源、福祉サービスを体験する。
【中学部段階】 生活への般化を中心とした指導
~学習の積み上げから応用~
- 将来の見通しの中で、生活技能や知識の拡大や般化を目指す。
- 様々な体験や経験を通して、社会的活動へと発展させる。
- 意思を伝え合う体験を通して、コミュニケーションの幅を広げる。
- 思春期の変化に留意し青年期に向かう行動との関連性に配慮する。
- 地域の様々な社会資源、福祉サービスを活用する。
【高等部段階】 職業、余暇、地域生活を中心とした指導
~限界性のあるものから可能性のあるものへ~
- 将来との関係で、社会自立や生活自立を目指す。
- 自閉症の特徴を生かすという視点をもつ。
- 現場実習等の体験を通して、職場の人との付き合い方を指導する。
- 卒業後に向け具体的な移行支援を図る。
- 地域の様々な社会資源、福祉サービスを、自己実現という観点から積極的に活用する。
【高等部卒業後】 人との関係、就労、余暇、地域社会への参加
~卒業後の健康と自己実現に向けて~
- 行動面
- 医学面
- 社会、職業面
- その他
3.自閉症の指導Q&A
Q1
「授業中、大きな声を出したり、状況に関係のない事を言い出したり急に離席することがあります。どうすればよいでしょうか。」
A
- 問題と思われる行動や言動にも必ず何らかの意味があります。まずは、その行動や言動の意味を考えることが肝要です。そのためには、その行動や言動がどのような時に発生し、どのような時に多いのか記録をとってみることが重要です。
- 記録の結果から、様々な傾向が読み取れます。問題としていた行動や言動が、実は嫌だと言えない代わりにしている場合や、何かを要求している場合があります。しかし、それを適切な表現で伝えられないために、そのような行動や言動をしているのです。
- そうした場合は、適切な表現(生徒の実態に応じて、言葉やサイン、絵・写真カードなどを選択します)を場面に応じて教えていきます。問題となるような行動や言動をしなくても自分の意思や要求が伝わることがわかると、その行動は漸次、減っていくでしょう。
Q2
「行事への参加が難しく、参加しても途中で混乱してしまうことがあります。どうすればよいでしょうか」
A
- いつもとは異なる行事などの場面では、見通しがもちにくく、進行や内容をイメージしにくいことが考えられます。併せて、友達や先生が多く、人的な刺激が多い場面は、自閉症の生徒には苦手です。マイクの雑音や反響音、時に起こるハウリングなどの音も不快と感じることがあります。
- 進行の見通しがもてるよう、傍について解説したり、絵カードや写真などの視覚情報を用いて支援することも大切です。
- 近くの生徒の動きが気になる時や接近しすぎると不安定になるような場合は、友達の席から少し離れて座ったり、信頼関係のできている教師などが一緒に座るのも効果的です。
- 聴覚過敏があり、マイクの大きな音などが気になる時は、スピーカーの位置から遠くに座ったり、騒音防止用のヘッドフォンの着用なども考えてよいでしょう。