公益社団法人 東京都教職員互助会

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教育研究グループ支援(研究成果報告)

研究の概要

若手教員の育成を中心とした学校経営

1 研究主題設定の理由

校長が目指す学校を実現するためには、教員一人一人に必要な力が備わっていることが前提である。しかし現在の学校現場では、若手の大量採用時代を迎え、毎年2600人以上の新規採用教員が教壇に立っている。その結果、初任者をはじめとする経験の浅い教員が半数以上を占める学校も少なくない。

さらに、年数を重ねた教員でも力量には個人差があり、「経験年数が長い=力量がある」という方程式が必ずしも当てはまらない。後輩教員にしっかりとした指導助言ができる先輩教員の育成はもちろんだが、これから数年後には学校の中核を担い、校長の経営方針を推進できる若手教員の育成と学校経営上若手教員の活用が大きな課題である。

本市小学校長会では、主任教諭選考資格がない8年未満の教員を若手教員と捉え、校長のリーダーシップの下、学校経営上効果的な育成を明確にしようと考え、上記の研究主題を設定した。

2 研究の進め方

(1)東京都教員人材育成基本方針の理解と活用を図る。
(2)市内全小学校の若手教員に意識調査を実施し、実態について把握する。
(3)市内全小学校長に若手教員育成に関する調査を実施し、育成の手だてを探る。
(4)本研究に関する情報を、市内各校長に提供するとともに、情報交換を行う。
(5)調査結果の分析に基づき、各校が実践した成果と課題についてまとめる。

3 研究の内容

(1)若手教員の意識調査
東京都教員人材育成基本方針の中で、経験や職層に応じて教員が身に付けるべき力として、基本的な4つの力が示されている。本市小学校長会では、若手教員の実態や意識の概要をつかむため、この4つの力を中心に項目を設定し調査を行うことにした。

<意識調査の主な内容>

<意識調査についての分析・考察>

(2)若手教員育成に関する調査(市内全小学校長対象)

<主な調査項目と記述内容>

【1】若手教員のよさは何ですか。
・職場に活気があり、活力が生まれる。
・若いこと。体が動くこと。バイタリティーがあること。流行に敏感なこと。
・パソコンや電子機器などの新しい教育機器に詳しい。

【2】若手教員に対する不安や課題、その理由について記入してください。
・心身両面での健康 (真面目すぎて精神的に落ち込むことが不安。)
・保護者への対応(多様化・複雑化している要求に細かな配慮が不足。)
・児童への対応(教科等に関する高い指導力、児童理解、対応力が不足。)

【3】若手教員に関して、どのように育成したいと考え、どのように進めていますか。
・学級経営ができる力をつけたい。そのために、各教科の学習をわかりやすく進める力、学級の子どもたちを掌握できる力を授業観察や個別面接を通して育成している。
・授業力(児童に分かる授業を実現する力)を向上させることが、若手教員に一番求められることだと考えている。そのために、校内研究や若手対象の校内研修会(毎月1回)を実施し、授業力向上に繋げている。
・社会人として良識のある人間・・・服装、あいさつ、仕事ぶりなど気がついたときにすぐ指導する。OJTを通して学年主任や主任教諭が指導する。

【4】若手育成に関して、校長としてどのようにリーダーシップをとっていますか。
・気がついたことは後回しにせず、直ぐに指導することを常としている。
・副校長や主幹・主任教諭に情報を伝え指導するように指示し、必ず確認をする。
・日々の学級経営を観察し、授業のねらいや発問、板書、評価等から、児童の学習規律の定着度や集中力等まで、それぞれの学級の実態を把握しておくことを心がけている。その上で、まず、よくなった点や児童の成長を具体的に褒める。必要に応じて、指導・助言するようにしている。

【5】若手育成のための自主的な研修会を実施している校長は60%である。主な内容は、
・相互の授業観察と指導についての意見交換、ベテランの授業参観を行う。
・管理職と主幹教諭による授業観察と指導・助言を行う。
・若手教員同士の話し合いに副校長、主幹が入って行う。
・管理職からの講話や先輩教諭(主幹教諭や主任教諭)からの伝達講習を行う。

【6】若手教員に対して主任教諭・主幹教諭・副校長はどのようにかかわっていますか。
・主任教諭:若手教員への指導、相談相手。主にかかわっている校務分掌や教科についての指導。主任教諭ごとに、重点的に指導する若手教員を決めている。
・主幹教諭:新採指導、主にかかわっている校務分掌や教科についての指導を行う。
・副校長:校務分掌についての確認を通して、事務処理的な指導をしている。

【7】若手教員に対する他の教員からの支援体制はどのようになっていますか。
・すべての教師が授業を公開している。
・学級経営上大きな問題に直面した時は、学校が組織を挙げて支援体制に入る。
・学年会や各分掌部会を通して、指導・助言を実施している。

【8】先生が考える信頼される教員とは、どんな教員ですか。
・児童のために、労を惜しまず誠実に行動し、いつも授業改善を目指している教員。
・児童の将来を見据え、学習指導要領の内容を理解し、今やるべきことをしっかり指導できる教員。
・児童への深い愛情をもち、児童の話に耳を傾ける教員。(児童理解と愛情)
・指導力があり、授業が面白く分かりやすい上手な教員。 
・保護者とこまめに連絡をとり、迅速で誠意ある対応ができる教員。

(3)調査結果をもとにした各校での取り組み

若手教員の意識調査や学校長対象とした若手教員育成に関する調査をもとに、研究主題である「若手教員の育成を中心とした学校経営」に迫るための手だてを検討した。その結果、学習指導力を中心に市内全校で取り組むことを共通理解し、実践事例を大きく4つに分けた。各校の実践事例については、以下の通りである。

4 学習指導力を中心とした実践事例

(1)OJTを通した指導・育成・・・・・・・・・・・二小、十小
A校>
【1】若手教員のOJTの内容と方法。
・副校長と主幹が中心となり、週1回の定例研修会を行う。(会場を会議室とし、木曜日の午後3時30分から実施している。)
・若手教員10名が集まり、実践した授業や普段の指導の中で、困ったことや問題点等、意見交換する。最後に、副校長や主幹から指導を受ける。
・普段の中で、若手教員の授業を通して、指導者の指導内容や方法を理解し、参観から課題や問題点に気付かせる。参観教員は、必ず意見を言う。できるだけ、互いの普段の授業を見せ合うようにする。自分たちだけで授業を見合うだけでなく、進んでベテラン教員の授業を参観する。

【2】ベテラン教員のOJTの内容と方法。
・若手教員から、進んで授業参観を受ける。普段の授業を見てもらい、授業の目的、学習内容、学習活動や教材工夫など、当たり前のことを指導する。1時間の中で子供の変容場面があれば、その点を強調して口頭で説明する。
・学校全体で教育活動を行う意識をもち、若手教員を育てるため快く引き受ける。

B校>
【1】職務中におけるOJT
・若手と中堅・熟練教員の組み合わせ
各学年2学級のため、若手教員には主幹教諭、主任教諭の指導教諭として配置する。、空き時間時の授業観察や交換授業が可能である。放課後の授業についての話し合いや指導の時間が容易に取れている。
・主幹教諭による助言
本校は2名の主幹教諭のうち1名は、少人数算数を担当し、毎日のように指導・助言をしている。

【2】OJT計画に基づいた取り組み
・学習指導に関するアンケートを取り、一人一人の若手教員にOJT計画を立案させる。児童理解(子供がどこでつまずき、それを乗り越えるための手立て)や指導技術(特に学習形態の工夫によるねらいの達成)を課題においている教員や教材研究の仕方や個に応じた指導の工夫について研修意欲をもっている教員が多い。

(2)初任研や2,3年次研を通した指導・育成・・・・一小、七小

C校>
【1】初任者研修制度をいかして
・初任者指導教官を中心に全職員で初任者の育成に携わっている。授業参観、研究授業後の指導を大切にするためセットで時間を設定している。指導を受ける初心者も指導をする側も緊張感のある初任者研修となっている。

【2】グループ研修
・若手を中心に、互いに授業を見せ合う機会を、学期1回ずつもち研修している。学級経営を中心に、全教科にわたり教師の基本を研修している。
今年度は、若手2人組(パートナー)を作り、互いの空き時間に授業を見合い、授業後に具体的な改善点などを指摘しあうようにしている。

D校>
・初任者研修会の一環として、初任者に校長講話として指導・講評を実施している。(月に1回程度)
・人事考課の一環として実施する授業観察の当日に、1,2,3年次の教員に対し
ては、教材開発、指導方法、指導技術、児童理解の手法及び、学校経営に関する
基礎知識などについて指導している。
・日常の校内巡視の際に、1,2,3年次の教員の学級にはできるだけ時間を多く
さき見に行った。その日のうちに指導・助言を行う。学級経営上問題があるクラスは、毎日繰り返し見に行き指導・助言を適宜行う。
・2・3年次研修会の一環として実施している研究授業を通して、学習指導のノウ
ハウについて指導・助言する。

(3)自主研修会を通した指導・育成・・・・・・・・・四小、五小、六小

E校>
・毎月1~2回、木曜日の16:45~17:15までの30分間を原則とする。
・30歳前半までの教員8名(30歳代3名、20歳代5名)で構成している。
・参加している教員は管理職と主幹で指名している。
・「校内若手研修会」として、副校長及び主幹が中心となり、会を運営している。
・年度当初の会で研修生から世話役(2名)を選出し、年度の研修計画を作成させ、副校長と主幹で研修内容を調整している。
・今年度は主幹や主任教諭を活用しながら、様々な指導技術の伝達講習を中心に実施している。

F校>
・各学期一回ずつの授業研究(22年度は、年間17回実施予定)
・1~4年次の教員、経験の浅い産休・育休代替教員(22年度は6名)
・3年次の教員が推進役となり、対象者の授業日程を学期ごとに作成。
・対象者ごとに助言者を決定。(助言者は、5年次以降の教員及び主任教諭)
・対象の教諭は、指導案作成について助言者から指導してもらう。
・当日の授業は、管理職、自主研修会のメンバー、助言者等が参観する。
・授業後に協議会を行う。(授業者、自主研修会のメンバー、助言者、校長が参加。司会と記録は輪番で行う)
・学期ごとに、実践報告書を作成。(実践報告書には、指導案の他、協議会の記録、助言者や校長による指導・助言、成果と課題を記載する)

G校>
・ビデオで授業を撮っておく。
・長期休業中や土曜の学校公開日の午後などに、ビデオ視聴をしながら研究会を開く。一回に2~3人の授業を視聴する。1人の授業のビデオ視聴は、20分程度である。教員を中心に見る。(児童の作業場面は早送りでとばす。)見ている教員は、小さなメモ用紙に気付いたことを一項目・一枚に書きためていく。
・ビデオ視聴が前半(10分)終わったあたりで、意見交換をする。『フレッシュ研修会』と名付けられているこの会に、時々ベテラン教員が講師として話をすることもある。

(4)小(大)規模校の特色を生かした指導・育成・・・三小、八小、九小

H校 小規模校>
・新採教員には、ベテラン教員と学年を組ませ、指導教官とする。
・全学年に音楽や図工の専科を配置し、若手教員の学級や児童の実態を把握する。
・給食指導などの時間に専科教員を学級に配置し、新採教員を指導する。
・副校長は、日々の「記録ノート」を活用しながら、自分の授業について若手教員が良い点や改善する点など振り返ることを通して、コメントを入れたり指導したりする。
・校長は、校内参観しながら若手教員の気になった点は、直ぐに副校長に伝え、副校長から授業について指導させる。改善されていない場合は、直接本人を呼び指導する。
・週案簿の記述についてねらいや時数のカウントなど基礎的な知識を指導するとともに、学校改善計画にノート指導を位置づけ、指導する。
J校 小規模校>

(1)学習・生活指導に関する情報交換を計画的に設定

・学習・生活指導の様々な指導方法について、情報交換する場を計画的に設定して
いく。
・教員がもっている指導技術を校内に伝えていく時間を職員夕会の時間に設定し、A4資料を用意し、2~3分間でベテランはこれまでの経験を若手に伝え、若手は自らの実践を紹介していくようにしている。 

(2)児童の授業評価を生かした授業改善
・毎学期末、各教科、道徳、総合的な学習の時間の児童の授業評価を実施し、長期
休業を利用して、その結果や自己申告書をもとに、各学期の学習指導の振り返りを行うための面接を実施している。この面接を通して、教員は自らの授業が児童にどう受け止められているか知ることができ、次の目標設定を行うようにしている。

I校 大規模校>
(1)校内組織体制によるもの
・全教員で初任者育成指導(月別指導、分掌指導、教科外指導等)を行う。
・学年主任(ベテラン教員)と、2~3人の若手教員で学年を構成することにより、日常的な学年会や打ち合わせ等が直接OJTの場としても機能する。
・各分掌の中心者を若手教員とし、ベテラン教員を所属させることにより、分掌推進過程をOJTの場としても活用できる。

(2)研究会・研修会(授業研究)等によるもの
・初任研・2年次3年次研・4年次授業観察の全校体制による研究授業と研究協議を実施する。その際、学年主任や各教科主任が指導案検討に必ず関わり、指導・助言を行う。一人、年間1回は、外部講師による指導の機会をもつ。
・校内研究において、本校元教員や現職教員(研究領域について専門的に学んでいる若手教員)が講師役となり実技研修、授業研究を実施する。
・年間最低一回の教員向け公開授業を全員実施する。実施に当たっては、校内研究での取り組みを中心に日程を明確にし、教員同士の学び合いを深める。

5 研究のまとめ

アンケート調査による若手教員の実態把握ができたとともに、若手教員の割合が市全体の35%に当たる現実を改めて実感した。市内全小学校長を対象にした若手教員育成に関する調査では、若手教員に対する不安や育成方法等について情報交換・共通理解を図ることができた。

特に、東京都教員人材育成基本方針の「学習指導力」について実践事例をまとめ、様々な角度から若手教員を育てる方法について学ぶことができた。

今後、若手教員をどのように意図的・計画的・組織的・継続的に育成していくか、若手教員育成のための指導者層をいかに確保するかが大きな課題である。

 

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