教育研究グループ支援(研究成果報告)
研究の概要
個別学習支援の効果的な方法
研究テーマ設定の背景
一斉指導の中では、なかなか理解ができず、そのために学習に対するやる気を失い、自己肯定感が持てなくなっている子どもを、どうやって引き上げていくかは、担任なら誰もが悩んでいることである。
平成14年の文部科学省の調査では「通常の学級に在籍する特別な支援を必要とする子ども」の割合がほぼ6.3%と示されたが、担任の実感としてもうなずける。
また、本市でも「学力向上」が大きな教育課題である。文科省や東京都の学力向上にための調査結果を分析すると、基礎・基本が定着できておらず、つまずいた所までさかのぼってなんらかの支援をしなければならない子が、一定の割合でいることが明らかであった。
そこで、同じような悩みを持つ近隣の学校の教師が集まり「個に応じた効果的な指導の手立て」について情報を共有・交換しあいながら研究を進めることとした。研究の進め方
- ちょうど、「特別支援学級」を併設しているS校・スクールインターンを受けているH校・退職教職員等活用事業を受けているK校であったので、それぞれの特色を生かしながら研究を進めることとした。
- 研究を進める教師の所属校長に協力を求め、学校での協力体制作りを依頼し、サポート教室作りを進めた。個別支援教室の名称は「個別支援サポート教室」とした。
-
サポート教室のねらいを次のように確認した。
わかる喜びを味わわせ、学ぶ意欲をひきだす。
自分のペースで学べる安心な居場所をつくる。
読む、書く、加減計算、九九など基本的な力をつけさせる。
サポート教室は取り出し学習を基本として、保護者の希望と同意のもとで実施する。(人権上の配慮) - 本市では教育委員会の支援で学習指導補助者の活用が進んでおり、各校の実情に合わせて、学生・ボランティアなど様々な人材を生かした効果的な指導の手立てを探ることとした。
- 月に1~2回をめやすに、研究員が集まって各校での実践の情報交換や評価をおこなった。共有できる活動を洗い出し、効果を検証した。
- 個別支援カードを作成し、その活用を図ることとした。カードの形式は各校の実情に合わせることとした。
実践事例
【S校の実践】
- 平成21年5月に個別支援の「サポート教室」を開設
- サポート教室の開設を家庭に知らせ、指導者は学習ボランティアの学生を充てた。(ティーチングアシスタント大学2年~4年生 4名が来校)
- 希望者の中から4名の子どもを決定し、実態に応じて1~2時間の取り出しをした。担任から子どもの学習実態を聞き、子どもの負担に考慮しサポートの時間を設定した。
- わかる満足感を得させることを第一に、教材は特別支援学級の協力を得て、楽しく学べるように工夫した。
《実践を通して》
- サポート教室へは思った以上の反響があり、家庭においても個別の支援を求めていることがわかった。
- 一斉指導の中では理解が進まない子どもの学習支援という趣旨を、学力アップの補習と理解した保護者もいた。趣旨について家庭へ丁寧に説明していくことが大切である。
- 保護者と子ども、双方にサポートへの期待がある場合に成果につながった。
- 指導者が学生であったため、大学の授業の関係で来校できないこともあり、時間割りが難しかった。また指導力の点で不足もあり、担任の依頼で繰り返し演習等のサポートになることが多かった。
- どの学級でも、サポート教室へ出かける子どもを温かく送りだす空気があり子どもの負担感をなくしていたことはとてもよかった。
《H校の実践》
- S校の反省から指導者として学習ボランティアを探した。情緒障害学級の指導経験もある人材が見つかり、スクールインターン学生とともにサポート教室を実施できた。
-
ボランティアとインターン学生で週3日開設し、計12人が通級した。希望者を決まった曜日に指導できるよう時間割を作成した。
3年男児5名・女児1名
4年男児3名
5年男児1名
6年男児1名・女児 1名
(教室・指導者の関係で、12名中6名は2人の組み合わせで学習した)
- 個別の指導ファイルを作成し、サポートの時間にどんな活動や学習をしたかが、担任・保護者に伝わるようにした。
- 各学年が作成したプリントを活用し、子どもにあわせた内容の学習を進めた。

《実践を通して》
- 個別のファイルで指導の情報を共有したことが、良い効果を上げた。担任や保護者からの要望や子どもへの励ましの言葉があり、子どもの意欲を高めた。
- 適切な指導者を得たことで、学習がわかるようになったことを実感し、サポート教室に通うことを待つようになった子どもがでてきた。
- サポート教室への要望が多くなったが、指導者が対応できる数に限度があり、課題となった。2名の子どもを一緒に学習させてみたが、指導が難しかった。
- 指導者と子どもが1対1で向き合って学ばせることで効果があがることがわかった。
- 子どもが参加をしたがる図工や体育の時間の取り出しを避けるなど配慮をし、サポート通級が子どもの負担にならないように配慮をした。
《K校の実践》
- 形成22年1月からサポート教室を開設し、4月からは退職教員等活用事業を受けられたので、3名の退職教員に参加してもらい、週に3日のサポート教室を運営できた。
-
【サポート教室通級者】
2~6年で募集し17名の応募があった。
1年生については集団内の学びを重視して募集をしないことにした。
特別支援校内委員会で、担任・コーディネーター等で通級者を決定。
2年女児 1名 男児 1名
3年男児 4名
4年男児 4名
6年女児 2名
計 12名で実施
-
余裕教室がなく、相談室と放送室を使用するなど指導のための教室確保に苦労した。
(2か所を確保して同時に指導した曜日もある)
- 毎時間、指導記録を取っていただいた。校長・担任が必ずそれに目を通し、通級での学習を把握するようにした。
- 指導者が元教員であったので、特別支援の個別指導計画をサポート教室で活用できた。より子どもの実態に沿った指導ができた。
R児の事例(4年男児):毎週1時間のサポート学習を1年間続けた。
【児童の実態】
- 話し言葉の意味が正しく理解できない。
- 文章の表わす意味や優しい読み物のあらすじを理解できない。
- 計算はできるが理解が十分でなく、文章題ができない
- 友集団のきまりを理解し友達に合わせ行動することが難しい。
- 手洗い・トイレ等身辺自立が十分でない。
【本人の願い】
- 友達と一緒に楽しく勉強したり遊んだりしたい
【保護者の願い】
- 友達と関わりを深めさせながら成長させたい。
指導の目標
1.読み・書く力、言葉の意味の理解を深めさせる
2.基礎的な計算の力をつける。
【指導記録(指導者から担任へ)・各月の記録からの抜粋】
- 4月12日
- ひとけたのわり算は少し計算ミスがあったがすぐ直すことができました。算数が好きとのこと
- 5月9日
- 観・察・付の三字の練習。意味のわからない言葉を電子辞書で確かめた。「お礼の手紙」の音読はかなりすらすら読めました。
- 6月30日
- 分数の学習を私が用意したドリルでしました。仮分数を帯分数に直すのが難しかったです。
- 7月21日
- 算数ドリルの直しと漢字ドリルを進めました。明日は「なぞなぞ」を出すと言うので図書室に行き「なぞな」を三題書き写しました。
- 9月8日
- 算数ドリル・少数・分数の学習をしました。小数第3位までを純を追って説明すると少し納得してくれました。㎏等単位で表わすと・・・が難しいです。
- 10月6日
- 角のテストを一緒に学習しました。直角は90°、直角が二つで180°、直角が4つで360°、三角形の内角の和が180°など確認しながらやりました。分度器の頂点を合わせることが難しいです。
- 11月10日
- 概数の学習ドリルを見直しました。四捨五入、未満の理解が難しかったのですが、良くついてきてくれました。わりざんの見直しもしました。
- 12月15日
- 算数ドリルはすらすらできました。125÷25の計算が難しかったです。社会科新聞作りは一人でどんどんできました。料理の説明がよかったです。
- 1月12日
- 新しい単元の面積に入りました。2人で陣取りをしてとても楽しかったです。1㎠の単位を覚えました。余った時間にもう一度陣取りをしました。
- 2月16日
- 小数のかけ算・わり算をしました。わり算の見当をたてることがだんだんできるようになってきました。
- 3月16日
- 漢字ドリルを読みました。よく覚えましたね。国語は得意といっています。残りの時間は地震の話、青森の七戸に知り合いがいることなどを話してくれました。
【子どもの変容】
R児は毎週1時間のサポートでわかることが少しずつ増え、教室で挙手をし、発言するなど自信をつけた。活動時の表情にも自信が表れ、学級内での友達との関係も安定してきた。それに伴い身辺自立も向上してきた。
1対1でじっくりと向き合って指導することで、個別指導計画の「会話の中で相手の言葉のだいたいを理解し、受け答えができる」という目標にほぼ到達できたことは大きな成果であった。

《実践を通して》
- とくにサポート教室では、指導者がここまでは理解させたいと教えるより、成果をあせらず、じっくりと取り組ませることが子どもに自信をつけさせることがわかった。
- 低・中学年の子どもたちは、カルタや数字カードなど遊びの要素を入れた活動等に、興味を持って喜んでサポート教室に通ってきた。サポートは学年の早い段階で始めるとより効果がでるだろう。
- 高学年になると取り出し学習の形態は、周りの目を気にしたりして、効果が上がらないことが多い。事例の6年女児は、納得して通級してきたので、指導者との会話などで心を開いてゆったりと学習できたと本人も評価せていた。個々のケースへの配慮がかかせない。
- 指導の記録を指導者・担任が共有することで、担任がそれらの情報を活用して子どもに自信をつけさせる活動を設定できたなど、大きな効果があった。
- 指導記録のほかに、指導者が学級での学びの様子を観察したり、指導者と担任の話しあいの機会を持ったことがよかった。
- 保護者の希望があり、サポート教室での学習を参観してもらい、担任・指導者・保護者の3者面談をしたケースもあった。保護者の安心感が子どもに良い影響を与えた。また、スクールカウンセラーに参観してもらい、アドバイスをもらったケースもあり、個々に応じた連携は効果的であった。
研究の成果と課題
【成果】
- 一斉指導の中では担任が十分に指導・支援ができない、学習の遅れのある子どもに対して、習熟状況を踏まえた個別指導ができ、国語や算数の基礎的基本的な内容の定着が向上した。個々の子どもの学習課題が明らかになった。
- 子どもの中に、つまずきに応じて自分のペースで学習を進められるという安心感が出てきた。
- 子どもが「わかる・できる」という気持ちを持てる場面ができ、自信や意欲が持てるようになってきた。
- 低学年の子どものつまずきやすい単元や内容が明らかになった。
- 発達障害等特別な支援を要する子どもに対して、柔軟な対応ができ、それらの子どもが落ち着いて過ごせる時間を増やせた。
- 担任が個別支援の効果を実感した。担任自身が指導上の支援を受けることともなり、メンタル面での負担が減った。個に応じた指導の必要性について教師の意識が高まった。
- 退職教員など、指導経験のある学習ボランティアから若手教員が児童理解の視点や指導技術を学ぶ機会になった。
- 保護者からの学校に対する期待や安心感が高まった。
【課題】
- 適切な指導者の確保が大きな課題である。退職教員等の協力がさらに得られればありがたい。
- 人材情報が少なく、ボランティアの確保に苦労した。交通費等ボランティア確保に予算が必要であるが、財源が少なく、広いエリアからボランティアを募れなかった。
- 人材・指導教室の確保等の面で、一人の子どもに対するサポートの実施回数増や、希望があっても受け入れられないことが多かった。
- 週1回1時間の通級では学力向上まで結びつけるのは難しい。週2~3時間指導や支援ができれば効果があると思われる子どももいた。「研究のねらいを達成」するには、継続した取り組みが必要である。
- 学校の状況で工夫しながらの実施だったが、教員の理解や校内委員会活用などができた場合は指導の効果がより実感できた。
- 指導ボランティアと担任の意見交換や情報共有・打ち合わせ時間の確保が難しかった。
- 個別指導をシステム化したり、組織の中に置く等の工夫や教師の意識の向上が今後の課題である。
